-最も安全なダイビングの方法を提案します-


by dirtech

100mダイブの理由

水深100mにダイビングする理由を質問されることがある。そんな時必ず「別に100mでなくても構わないんですが」と言うと、おおかたの人が肩透かしを食ったような顔をする。しかしこの答は、てらいでも詭弁でもない正直な答えなのだ。

ダイバートレーニング市場では、「ダイビングは安全」あるいは「安全で楽しい」と告知広報され、新規のダイバー集客の呼び水となって久しい。この広告キャッチの制作者達が意図的に狙ったのかどうかはうかがい知れないが、ルールを確立し、合理的なトレーニングプログラムを作り、それらを実施し、リスクを管理して、その「結果として」安全にダイビングを行っているのだ。

本来、人間が生存できないというリスクのある水中で遊ぼうとするのだから、スクーバダイビングは無条件で安全であるとは言い切れない。制限と安全ルール、教育プログラムとインストラクターの介在がダイビングの安全性を担保しているのだ。

言い換えれば、リスクのあるスポーツで安全を追求するという意味は、その活動のリスクを知り、リスクをマネージメントするということに他ならない。スクーバダイビングという遊びが認知され拡大した背景には、ダイバートレーニングプログラムと認定システムが大きく寄与したのは間違いない。ところが普通、ダイバーはいったん認定されれば、受講してきたマニュアルの内容以上の知識を求め、ダイビング技術を練習するという場面をあまり見受けることが無い。

多くの認定団体では、ディープダイビングの最終点であるトライミックスダイバートレーニングを75mから90m前後に限界を定め、認定後、さらに経験を重ね、知識と技術を磨きあげてゆけば制限を設けていない。したがって80mでも90mでも良いのだが、100mというわかり易い単位と目標を設定し、ダイバーがその純粋な目標に向かって知識を掘り下げ、経験を積み、能力を収束させて限界の拡張を追求するプロセスこそが重要で、まさに究極の安全を求める姿勢を作り上げる。

須賀次郎氏がオープンサーキットスクーバでの100mダイブを成功させたのは、1996年2月。氏が61歳の時である。当時このプロジェクトは、日本のスポーツダイビング界を挙げて1年以上をかけて準備し、潜水医学、混合ガスなどの各分野のエキスパートが集結して実行された。およそ10年の歳月を経た現在、年齢が若いとはいえ通常のダイバーが、リクレーションを目的とした同様の大深度潜水が可能なレベルに、当時に比較して剋目すべき状況に、時代は進歩した。

そして2009年8月には、私の知る限り、日本人女性初のオープンサーキットでの100m到達ダイバーが誕生した。この事実は、ダイバーが望み、100mを安全に目指すという正しいモチベーションがあれば、必要なトレーニングを受け、適切な経験を積み、周到な準備をすれば、決して特殊な結果ではないことを実証した。

より正確に表現しようと試みるならば、「安全で楽しい」のではなく、制限とルール、インストラクターをはじめとするダイブプロフェショナルの介在によって「安全」となり、ダイバー自身がリスクを回避の判断と行動を怠らず、安全性を追い求める認識と努力続ける限り、したがって「安全だから楽しい」のである。

未知の世界への探訪に潜む危険の中での安全を追求する、人間の生存を賭した明快な行動は、ダイビングという遊びが知的情熱の賜物であることを証明している。
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by dirtech | 2009-08-30 20:24 | "快刀乱麻"